how to do

来年8月末までに、この小説を完成させなければならない。

締め切りは来年の夏だから、まだまだ先。

しかし、まったく筆が進まない。

締め切りが遠いから、やる気が起きない。

 

師匠の坂本先生に相談した。

坂本先生は、そうかそうかと話を聞くばかりで、具体的なアドバイスは口にしなかった。

ただ、ひとつ説教めいたことを言われた。

「どんなにやる気を落としても結構だが、締め切りまでに原稿が出せないというのは、『おたくの出版社からは作品を出したくありません』という意思表示だ。二度と声がかかると思うな。」

 

1週間後、出版社から連絡があった。

諸事情があり、急遽1か月後の9月末までに、原稿を出してほしいという。

血の気が引いた。短すぎる。

しかし師匠の言葉がある。出さないわけにはいかない。

俺は余計なことは考えず、思い描いていたストーリーを、とにかくどんどん片っ端から原稿に吐き出していった。

そして9月30日、原稿は、やっと出版できる最低限のレベルにまで達成した。そこでタイム・アップである。

出版社の担当者は、申し訳なさそうに原稿を受け取ると、俺に向かってしゃべり始めた。

「お疲れさまでした。実は、いきなりこんなことは、やはり申し上げにくいのですが...。締め切りは、当初の予定通り、来年の夏なのです。1か月後というのは、坂本先生に、ひとつ芝居を打ってほしいと頼まれて申し上げたことなのです。」

 

師匠は、原稿が書けないという俺の悩みを、一気に解消してみせたのだ。

どんなアドバイスよりも強烈なやり方で。

 

俺は担当者に言った。

「そうだったのですか。ああ、ありがとうございます。本当にありがとうございます。実は、もっと練り直したい部分があるのです。締め切りは、また来月ということで、よろしいでしょうか。」