美術館
休日の美術館、順路の中ほどに展示してある絵に、目が留まった。
暖炉の柔らかい光が充満する部屋で、白いひげが印象的な眼鏡の男性が、本のページの角を指でつまみながら、穏やかな顔で、そこに書かれた文字を追っている。
俺は、読書にふける絵の男性を、羨ましく感じた。
(いいな。俺もああやって、ゆったり落ち着いて書物をひもとく暮らしをしてみたいものだ。)
しかし、絵の下に付された解説をみると、先ほどの印象とは真逆のことが書いてあった。
描かれている男性は作家であり、この絵は、執筆作業に行き詰まりを感じた彼が、締め切りの前夜という土壇場に、アイデアを求めて、当時の人気小説を必死に読みあさっている場面だというのだ。
もしあの絵の男性が、締め切りに追われておらず、落ち着いた状態で本を読んでいたとしたら、俺はこの絵に、ここまで惹かれなかったのかもしれない。
いったい、人を惹き付ける美しさとは、どこから来るものなのだろう。